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“Cinema Japonesque”、
ヨーロッパで得た“日本への憧憬” <後編>

Collection 2020.03.07

アジア的な視点で描く群像劇

各シリーズを集合させる形は、2017年から温めてきた「群像」のイメージが濃く残った結果である。映画や演劇において、個人ではなく複数の人を同時に描き、大きな結末はないが人によって見方が変わる結末を持つ作品を群像劇と呼ぶ。岡本は、そのエッセンスもアジア的な視点と西洋的な視点に置き換えて取り入れた。

例えば、モチーフ同士の関係性を捉える心理テストでも、西洋ではモチーフに特化する傾向があるが、アジアでは環境も含めた俯瞰で見る群像的な視点がある。形にしたかったのは、さまざまな素材やモチーフを総合することで半歩変わる、その新たな世界なのだ。

こうした思いの軸となるアイテムが、SIRI SIRIでは初となるワードローブだ。「夏に着物を着ることは難しくても、着物地の美しさと涼感を纏えるものをつくりたい」という閃きから、着物ブランド「THE YARD」とのコラボレーションが実現。「着物の概念にもいろんな解釈があっていい」という矢嶋孝行社長によるお墨付きもあり、ワンピースとボレロ、ユニセックスのセットアップが完成した。

生地は、THE YARDオリジナルの浜松産綿麻地。涼しげな見た目に加え、シボ(凹凸)加工による風通しのよさが特徴だ。加えて、デザインで最も意識したのが反物の幅だった。岡本は、着物地が長い歴史を持ちながらも洋服に応用されにくかった理由を、織機の仕様による40cmの規格にあると考えてきた(一般的な服地は90、110、140cm)。だが、洋服だからとその幅を歪めるのではなく長所として転換させたいと、パタンナーとともに、アジアの衣服の特徴でもある“打ち合わせ”を活かしたパターンづくりに取り組んだ。サンプル用の生地と実際の生地のハリの違いに最終段階で気づき、肩や袖口の調整には苦心したが、最終的には丸みと張りのコントラストもある上品なデザインが完成した。

その他、RADENシリーズのジュエリーとARABESQUEシリーズのバッグの新作が発売される。

まずRADENからは白蝶貝のアイテム。清涼感あるブルー系の白漆がポイントだ。デザインは、既存のモチーフを縮小することでよりシンプルに。さらに金属の本体が白蝶貝のモチーフと同じ形になっているなど、ファンにはたまらない仕掛けが施されている。RADENは、今やSIRI SIRIに欠かせないシグネチャーシリーズとなった。そのラインナップの充実をはかり、ワードローブと同じく夏に清涼感を感じさせる色としてブルー系を採用した。

じつはこの色みは、RADENを手がける職人松田祥幹さんからの提案だという。既存の青色漆では色が黒っぽく沈むため、2時間ほど手で練った"パール粒子入りの明るいブルー”と“白”の漆を混ぜてつくっている。だからこそ、日常使いできるシンプルさがありながらも、繊細で上品な魅力が楽しめるのだ。

ARABESQUEシリーズからは、竹と籐によるクラッチバッグ。当初は竹のみで考えていたが、諸処の理由から竹と皮籐シートのコンビを採用することになったアイテムだ。職人の岡安康子さんの繊細な仕上げはもとより、大胆に曲げた持ち手と口のカーブパーツには同じく通常の持ち手を手がける職人の技が光る。丸みを帯びた洋風のデザインに始まり、相当数の試行錯誤を経て和が感じられる現在のデザインへ。籐は、自然素材と形が融合して完成する。予測できない素材だからこそ、図面ではなく手でデザインすることが重要と改めて実感させられた、と岡本は語る。だがこの素材やミックス感こそが、実は「群像」のエッセンスを最も濃く引きついでいる。

SIRI SIRIのスタートは2006年。当時はまだ日本のデザインを評価する動きは弱く、フランスやイタリアのように西欧のデザインに憧れる風潮があった。しかし、その傾向もずいぶんと様変わりしている。社会の変化も含め、国内外で受けてきた影響を織り込んだ「Cinema Japonesque」。ワードローブの発表という新たな挑戦に加え、初めて和の要素を強く打ち出した。「心配はあるけれど、どんな反応がもらえるか楽しみ」とは岡本の言葉だ。

ジュエリーブランドとしての新たなステップとなるコレクション。
今までと同じようでいて半歩だけ何かが動く、そんな新たな世界が描かれている。

文 木村 早苗
写真 (C) Takashi Kawashima

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