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“Cinema Japonesque”、
ヨーロッパで得た“日本への憧憬” <前編>

Collection 2020.03.02

2020年新作のテーマは“Cinema Japonesque”。メインのアイデアとなった“Japonesque(日本)”に、流れや連続した動きを意味する“Cinema”を組み合わせた造語だ。

SIRI SIRIのジュエリーづくりはいつも、岡本の「つくりたい」という思いが起点にある。その点はいつもと変わらないが、今季は素材に焦点を当てるのではなく既存シリーズの新作を組み合わせたコレクションとなった。

岡本がヨーロッパに拠点を移して4年。海外での暮らしが日常となり、外国人が持つ“日本的なものへの憧れ”、言わば羨望の視点が自らにも表れるようになったという。静けさや綻(ほころ)びをも是とし、自然の造詣を崩さず、時には融合する日本の侘び寂びや禅の心。そうした要素からなる日本のデザインやアートへの思考に、変化が芽生えてきたのだろう。

そもそも、日本を含めたアジアとヨーロッパでは、日常的に触れるものの感じ方からして違う。例えば、静寂と音の関係。静かな空間に音が生まれた時、西洋では音と環境は個別で存在するが、アジアには湿気があり音は湿気に溶け込んでいく気がすると言う。環境と混じり込む感覚や空気感が時々恋しくなる、とも。その羨望や熱は、かつてのゴッホやモネがJaponesqueの要素を作品に取り入れた気分と近いのかもしれない。

もう一つの影響が、創作の基礎となる出自の問題だ。ヨーロッパで活動するデザイナーはみな、オリジナリティを出す上で自らの出自や背景を掘り下げ、なぜそのデザインに到ったのかとアイデンティティを明確にする。その中で「日本らしい美的センスを活かしたデザインを、ダイレクトに伝えるようなものがあってもいいと思うようになった」。岡本は、自分にしかない出自と対峙することで、周囲からの日本文化への憧れや熱を新たな形で受け止めるようになったのだ。西洋の日本人が日本に馳せる憧れ。その逆輸入のような面白さが今回のコレクションを支えている。

文 木村 早苗
写真 (C) Takashi Kawashima

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