Shopping Cart

SIRI SIRIをつくる、自分らしい働き方<前編>

自由の探求者 | 2021.09.07

SIRI SIRIをつくる、自分らしい働き方<前編>

SIRI SIRIは「スタッフや職人、バイヤー、お客さま、いろいろな人の関係性の中で成り立ってきたブランド」だ、と設立者でデザイナーの岡本菜穂は言う。

もし自分一人でできると思っていたら、一人で作家活動をしていたでしょう。でもチームをつくったことでクリエーションに集中でき、それによってSIRI SIRIというブランドは形になっていったのだと思います」という岡本の言葉どおり、岡本を含め現在9名のスタッフで成るチームは、それぞれが個性や才能を生かしながら自分の足でしっかりと立ち、現在のSIRI SIRIを創り上げている。

本企画では、前後編に分け、今SIRI SIRIチームではどんな人々が働き、それぞれ自身の生き方をベースに、どのように仕事に向き合っているのかを紹介する。普段はなかなか見えづらい、SIRI SIRIのものづくりの背景を感じていただけたらと思う。

海外と日本。双方の文化が正しく伝わるように翻訳する

2018年よりSIRI SIRIのブランド・ディレクターを務める深井佐和子は、ビジュアル&編集ディレクションのほか、国内のコラボレーション企画や海外と日本をつなぐ事業を担当。スイスにいる岡本に変わってスタッフの採用なども担当しており、日本におけるチームリーダーのような役割を果たしている。

もともと現代写真のギャラリーや出版社でディレクターとして働いていた深井は、ヨーロッパでの約5年に渡る居住経験があり、日本とヨーロッパの感性の違いや、その面白さをスイス在住の岡本と共有してきた。

深井:ヨーロッパで暮らしていたからこそ、外側から見ての日本の文化の深さや価値をすごく自覚しています。個人主義のヨーロッパのほうが人間としての豊かさは尊重されていると思う。それは金銭的な意味ではなく、時間や感性、考え方を尊重することが認められているという意味での社会的な豊かさです。岡本さんも私も文化の違いを冷静に見て、SIRI SIRIのプロダクトを通してそんなヨーロッパの個人主義的な豊かを伝えられたらいいねという話はずっとしていました。

ヨーロッパの「豊かさの概念」を日本に伝えられたら。一方で「日本の文化や技術」をヨーロッパに伝えられたら、という思いもあった。

深井:私はフリーのディレクターとしてほかにも仕事をしていますが、全てのプロジェクトに共通しているのは、日本と海外の文化的な交流、インターカルチュラルエクスチェンジ的な意義があるかどうかと言うことです。日本にはSIRI SIRIに限らず、すばらしいデザインや技術があっても、海外では十分に知られていない。あるいは、禅やミニマリズムのように、日本がリスペクトされているといってもそれは向こう側で都合良く解釈された日本だったりします。

だからこそ「双方の文化を理解した上で正しく伝わるように翻訳しながらパブリッシュすること」が、自分がやっていくべきことだし、自分の強みだと思っています。

ちょうどSIRI SIRIがジュエリーだけではないライフスタイル全般のブランドに拡大を目指し、海外展開も本格化するというタイミングで、それなら、SIRI SIRIを日本のライフスタイルブランドとして世界に出していくチャレンジはかなり面白いんじゃないかと思いました。

岡本の大学院卒業やヨーロッパ向けの新たなプロダクトの開発も順調で、ようやくこの夏に本格的に海外展開がスタートできる。しかし海外ブランドの傘下に入ったり、大手代理店に委託する方法ではなく、自分たちの言葉で広げていきたいと語る。

深井 SIRI SIRIが目指すのはコマーシャルなラグジュアリーブランドではなく、日本的な感性を現代版にアップデートして伝えていくブランドだということ。その背後にあるものは日本の文化や精神性であるということが理解してもらえるような訴え方を考えていかなければいけないなと思っています。

 

職人、スタッフ。人の価値を高めることで企業をつくる

深井がSIRI SIRIというブランドイメージの輪郭をつくり、実際の事業を進めているとすれば、それをビジネスとして冷静に現実に落とし込み、その都度必要な判断をしているのが共同経営者の小野裕之。小野は、2016年にSIRI SIRIが当時の運営会社から独立する際に共同オーナー・経営者として参画した。現在は、SIRI SIRI以外にもソーシャルビジネス等経済性と社会性のバランスが難しい領域を主軸に、数社の経営やコンサルティング業務に携わっているプロデューサーだ。

小野は、自らのビジネススキルを生かし、アーティストやクリエイターのように、尖ったことをしている人たちの手となり足となり、ビジネスモデルとチームも構築し、自立できるところまでもっていく仕事が好きなのだという。

小野:岡本さんは表現者ですけど、商売にもきっちり向き合ってくれる人。ただ、経営自体がすごく得意というわけではない。僕は数字の管理をしたり、3年後までどう会社を持続させるかを考えたり、どんなパートナー企業と組んだらいいのかを提案したりといった大きな視点をもって経営を考えることができます。そこは僕にしかできない仕事かなと思っていますね。

アパレル業界やジュエリー業界にいた経験はない小野が、長く経営に携わってきた理由はなんだろうか。

小野:SIRI SIRIはスタートから15年経ったいま、結果として似たようなサイズ感やテイストのブランドがなく、希少性のあるブランドになっていると思います。そこに経営者として入れるチャンスはそんなに巡ってくるものじゃありません。それと、SIRI SIRIのジュエリーは職人さんに手作業でつくってもらっていますが、僕は、職人さんの価値を高めていきたいということを、常々問題意識として持っていました。たとえば流通を担う企業ばかりが儲かって、実際につくっている人たちは慎ましく生きているみたいなことに対して、もうちょっとフェアにできないかなという思いがあったんです。

常に関わる人々のことを考え、課題の解決も含めて経営というものを捉え、事業を展開してきた小野は、半年に1度、全スタッフの面談を実施し、スタッフ個人のキャリアのステップアップも気にかけているという。

小野:経営者がスタッフの面談をすると、どうしてもそれまでと同じ勤務形態や担当領域で働いてもらうこと前提で話をしてしまいがちです。でも僕は、SIRI SIRI内のキャリアではなく、個人のキャリアがどうSIRI SIRIに関わるのか、SIRI SIRIでどうするのかではなく、個人としてどうしたくて、そのためにSIRI SIRIとどう向き合うのかという話をしています。なぜかというと、そのほうが断然、人は成長するし、それが結果的に会社にとってもプラスになるからです。

 

クオリティをしっかり見極める、品質管理という仕事

福田知佳は、2016年にSIRI SIRIが独立する以前から働いている唯一のスタッフ。仕事内容は、生産管理と制作の企画進行。もともとは展示会のオーダーの集計や職人への製作の依頼、納品や物流といった生産管理をメインで担当していた。現在は仕事量が増えてきたこともあり、生産管理のスタッフが新たに加わり、福田は制作全体を統括する立場となった。

福田:今は岡本さんがスイスにいることもあって、岡本さんと職人さんと一緒にプロダクトをつくっていく業務がメインです。日本での職人さんとのやり取りは基本的に私がしています。SIRI SIRIは特殊な素材を使うことが多かったり、毎回挑戦があるので、たとえばリングのこの形状をつくるのに、技術を含むどれくらいのコストがかかるのか、安全性があるのか、使っていてどうなるのかといった「物としてのクオリティ」をしっかり見極め、品質管理をしています。

こうした品質の部分にも細心の注意を払いながら、デザイナーと職人の間に入ってプロダクトをつくり上げていく作業は、実際のところ、かなり難易度が高い。今でも日々悩みながらやっているという。

福田:正直、デザイナーと職人さんが直接やりとりしたほうが早いんです。だからこそ私は、ただ間に入る伝書鳩じゃダメなんですね。私自身がきちんと調べて考えたり、ちゃんと知識を持って、こういうことができないか、このやり方はどうか、これは技術的に難しくてつくれないからこうしたらどうかといった提案とアクションを、岡本さんにも職人さんにも起こさないといい仕事にはならないんです。

福田は、対等に話ができるよう、常に調べ、学び続けてきた。あちこちの美術館や展示に足を運び、職人さんと直接やりとりしているうちに、日本の伝統工芸や芸能もにどんどん興味が湧いていった。

福田:つくり手の感情や時間を感じられる工芸技術が好きです。SIRI SIRIではそれを身近で見て、一緒に仕事ができる。難しいことも多く、私自身も毎回挑戦ばかりですが、それができる環境が有り難いです。

今力を入れているのは、職人さんの発掘や育成です。量産の体制を強化するためにも、職人さんをなるべく増やしていきたいと思っています。そこで20代の若手の職人や作家さんを見つけて、SIRI SIRIのプロダクトをつくっている職人さんの工房で講習会を開催してもらう、「技術の継承」を進めています。

SIRI SIRIのプロダクトは型がなく、とても繊細なものもあります。既存の形を守りつつ、同じように仕上げるためには、ある程度の技術と経験が必要です。そのため、私たちが求めるクオリティに達して仕事として依頼ができるようになるまでに、1年から1年半ぐらいはかかります。結構長い道のり。でも早い段階からレベルアップしていってもらえば、本人の経験や仕事にもなり、その先SIRI SIRIの商品を長くつくってもらえるようになる。会社としても安心して事業を広げていけるし、将来的にもっとたくさんの方にプロダクトをお届けできるようになると思っています。

 

ブランドはひとつのイメージをもって立っていないといけない

岡本は、クリエーションに集中したいという思いがありながら、デザイナーだけでなく経営者であることも選択している。それは、経営もものづくりに関わる大事な部分で、完全には切り離せないと思っているからだ。

岡本:そこを完全に手放してしまうと、つくるものにもすごく違和感が出てくると思っています。ブランドというのは、やっぱりひとつのイメージをもって立っていないといけない。それは、SIRI SIRIでは今のところ私が持っているので、私が生きているうちはデザインだけでなく、全体のディレクションまでしたいと思っています。

Photo by Simon Bcc

そう話す一方で、細部についてはスタッフに任せるようにもしている。また、スタッフから企画が提案されたときには、それがブランドとしてのラインを超えるいい企画であれば、どんどんやってもらいたいと考えているそう。たとえばハーブシロップブランド「calm」とコラボレーションしたオリジナルシロップは、実はスタッフから提案され、ほとんどを任せて実現した企画だ。

岡本:ものづくりって本当に楽しいんですよ。だから、スタッフにもどんどん自由にチャレンジしてもらいたいと思っています。自分で発言して自分でトライする。もし失敗したら、そのときはやめればいい。もちろん、ビジネスなので厳しく見ることもありますけど、それよりも、足踏みして何もやらないことのほうが私は気になるし嫌なんです。それは、スタッフひとりひとりに、自分ごととしてSIRI SIRIの仕事に取り組んでほしいと思っているからです。

それぞれがそれぞれの立ち位置で、自分の役割をまっとうし、やりたいことをやる。そこから生まれるプロダクトがクリエイティブであるということは、当然のことなのかもしれない。最後に、岡本が今、どんなことに興味を持ち、新たなデザインに取り組もうとしているのかを聞いた。

岡本:最近コラボレーションしたスイスのデザインスタジオBienvenue Studiosのインタビューで彼らが言及していた「バイオフィリック」という考え方は面白いなと思いましたね。これは、自然をデザインに入れ込むと生産性が上がるという、ある意味ですごく西洋的な考え方です。でもそれって、日本では昔からずっとやってることなんですよね。今度はそれをあえて意識してデザインしてみたら、いったいどういうデザインになるんだろうということが気になっていますね。

岡本から落とされるインスピレーションの小さな種。それがSIRI SIRIというチームによって育てられ、美しい花を咲かせていく。

 

文 平川友紀
写真:小野奈那子

Subscribe to our Newsletter 最新情報のほか、ご購読者様限定コンテンツをメールにてお届けいたします