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SIRI SIRI magazine
Assemblage


SIRI SIRI ASSEMBLAGE は、 意外性を感じさせるマテリアルと伝統的な職人技術との組み合わせにより
コンテンポラリーな作品を発信するジュエリーブランド SIRI SIRI が発信するWEB MAGAZINE です。

「螺鈿」。その伝統的な上品さと華やかさのエッセンス

「螺鈿」。その伝統的な上品さと華やかさのエッセンス

日本では古くから年中行事や婚礼、おもてなしの宴など、めでたい席に螺鈿を施した漆器を利用してきた。螺鈿とは、奈良時代に唐(中国)から伝わり、正倉院の宝物や平等院鳳凰堂の寺院装飾に使われた技法。室町時代には中国螺鈿の影響で薄貝技法が、桃山〜江戸時代には朝鮮螺鈿の影響で割貝や微塵貝技法や貝の染色が流行するなど、時代に沿った形で調度や装身具、刀装具などに施されてきた。

その成り立ちや素材の貴重さもあり、特に正月や新春を祝う席では螺鈿や金を施した屠蘇(とそ)膳や祝い用の重箱などの漆器が用いられるようになった。また日本髪が発達し髷(まげ)が華やかになった江戸中期には、蒔絵や螺鈿、象嵌をあしらった高級な簪(かんざし)や櫛(くし)も多くつくられている。琳派の尾形光琳も、重箱や文箱はもちろん装飾品として螺鈿や蒔絵の櫛を制作し、ハレの日の女性たちを華やかに彩ってきたのだ。

そんな螺鈿をジュエリーの素材として用いたのが、2年前に登場したRADEN。伝統的な螺鈿の技術とモダンなデザインを組み合わせた、SIRI SIRIでも人気のシリーズだ。上品さと豪華さ・華やかさ、一見相容れなさそうな要素を一つのジュエリーとしてまとめ上げた。デザイナーの岡本菜穂は語る。

 

上品な素材とプリミティブかつモダンな造詣というバランス

岡本:螺鈿は10年ほど前からずっとやりたいと考えていた素材でした。ただ、和の要素が強い素材だけに、使い方を間違えるエキゾチックな印象になりすぎてしまう。デザインしてみようと思い立った時も、そのバランスには特に注意しました。

加賀蒔絵作家の松田祥幹さんと出会ったのもそんな頃。螺鈿は、夜光貝や鮑貝、蝶貝などを模様通りに切って木地や漆地に埋め込むか貼り付ける加飾(装飾)技法。材質や技法については過去の記事でも紹介しているから、ご存じの方も多いかもしれない。松田さんの細工は薄貝螺鈿。薄さ0.1ミリ以下の螺鈿シートを用いるので半透明に透けて見え、裏に塗る漆の色でも見え方が変化するミステリアスさがある。

岡本:通常の螺鈿はこのシートを小さく切って貼るのですが、シートの薄さや大きさを見た時に、広く使って紙のような質感を活かし、水面が光るような美しさを表現したいと感じたんです。

同じ頃に東京・根津美術館の展示で、花を描いた尾形光琳の文箱を見かけ、そのグラフィカルでモダンなデザインと厚みある螺鈿の質感(光琳は鮑の厚貝技法が多い)に、かわいさや洒落っけを感じたことも大きかったという。素材になる貝は夜光貝や鮑貝、栄螺貝、蝶貝、アコヤ貝などがあり、蝶貝一つとっても黄や紫、黒などの色があるが、岡本は白蝶貝を選んだ。

岡本:SIRI SIRIらしい上品さを重視しました。また高級な存在とされてきた螺鈿の歴史や文化を大事にしたかったのです。螺鈿シートの背面にはさらに白い漆を塗っていますが、白だと肌に柔らかくなじんで綺麗に見える光が生まれるんです。

螺鈿は背面に塗る漆の色で印象が大きく変わる。螺鈿の重箱や椀、屠蘇膳などで一般的に見かける煌びやかな虹色は、黒い漆ならではのもの。ちなみに白い漆を塗る螺鈿は琉球の朱螺鈿が有名だが、18〜19世紀の輸出品として有名だった長崎螺鈿には赤や黄、緑の漆が使われていたという。

岡本:白にも青みがかったものからピンクっぽいものまでいろいろあるので、松田さんにSIRI SIRI用の配合で白い漆をつくっていただきました。螺鈿そのもののピンクがかった七色の光を活かす、ピンク寄りの色です。

そしてゴールドの部分は、当時滞在中だったイギリスの博物館でよく見ていた、原始時代のオブジェらを参考にデザインした。

岡本:上品な素材とプリミティブかつモダンな造詣というバランスが面白そうだと思ったんです。そこで、シンプルな中にどこか歪みや手の揺らぎが感じられるような形を考えていきました。当時は鉛筆やペンで描いた時の手のゆらぎとパソコンでデザインする時の線の関係性にも興味があったので、手書きの微妙な角度をパソコン上でもそのまま残しています。

螺鈿はそれ自体だけでかなり強い高級感と和のオーラを放つ。だからこそ、ヨーロッパ的なモダンさを組み合わせて、現代になじむ上品さへとシフトさせた。素材と美しさや新しさのある形の融合がSIRI SIRIのジュエリーの特徴だが、RADENシリーズではまさにこのバランスの妙を感じることができるだろう。

岡本:螺鈿の色も、金具の形もその素材や技術に沿うように、対立しないようにとフレキシブルなスタンスでデザインしています。合気道じゃないですけど、間合いをはかるかのような。形のデザイン面では特に日本を意識している訳ではありませんが、素材や手法、そしてデザインプロセスの意識はとても日本的なんです。

 

既存のデザインの枠を超えられるか

ただ、岡本はもちろん松田さんも初めての取り組みで、形にする大変さはやはりあったという。当初は薄さを強調して羽根のような質感を出すため、シートをそのまま金具に着けるデザインだった。しかし端の切り口の処理や強度の問題もあり、最終的に0.3ミリの枠をつけることに変更。また枠をつけたことで必要になったはめ込み作業も当然難易度が高い。精密レーザーカッターで一度大まかにカットした螺鈿シートを、金枠の歪みに合わせて一つひとつ隙間が出ないように調整する必要があるのだ。

岡本:今までの技術や常識を踏まえすぎても、既存のデザインの枠を超えられないですからね。松田さんの高い技術のお陰で、思った以上によい雰囲気のジュエリーになったんです。螺鈿の上品さや高級感もうまく表現できていて、今ではガラスや籐と並ぶSIRI SIRIの代表的な素材になったと感じています。

ちなみに、岡本自身もsquareとHindwingを所有しているが、片耳に空いた二つの穴にsquareHindwingを並べて着けたりするという。つけ方や楽しみ方にも人となりが出るのがジュエリーの面白いところだ。

岡本:抽象的な形の重なる感じが、昔から大好きなカンディンスキーやパウル・クレーの抽象画のようにも見えて、つけているとうれしくなるんです。もしこういうアシンメトリーなつけ方ができる方がいらしたらぜひ。上品なのにコンテンポラリーな雰囲気も出て面白いですよ。

岡本は、装飾品とはつける人の立場や思想、個性を引き出して強調するためのハブだと考えている。人の手ざわりや歪みが加わったゴールドに、浮遊感を感じさせる半透明の光を放つRADENシリーズ。新春の場で重用された器や膳のように、おめでたい柄を施した女性たちを飾った櫛や簪のように、螺鈿の伝統的な上品さと華やかさのエッセンスを閉じ込めたジュエリーは、今を生きる女性たち一人ひとりの華やかさを引き出す存在なのである。


文  木村 早苗

写真  西堀 綾子

 

<参考文献>

・室瀬和美、田端雅進ほか著『地域資源を活かす 生活工芸双書 漆1』(2018年、農山漁村文化協会)

・『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 (2008年、ブリタニカ・ジャパン株式会社)

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